犬と猫の予防接種|種類・タイミング・副反応まで徹底解説
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「家族の一員である愛犬や愛猫が健康に過ごし、長生きしてほしい」──飼い主様なら、きっと誰もがそう願うことでしょう。そのために欠かせないのが予防接種です。
予防接種は、愛犬や愛猫を感染症から守るための強い味方であるだけでなく、周囲の動物や私たち人間への感染を防ぐという社会的な役割も担っています。
特に、一度感染すると命に関わるような病気でも、予防接種を受けていれば高い確率で防ぐことができます。
今回は、愛犬や愛猫の健康を守るために知っておきたい予防接種の重要性や、接種の種類、さらにスケジュールについて解説します。
■目次
1.愛犬・愛猫の健康を守る予防接種とは?
2.犬に必要な予防接種の種類
3.猫に必要な予防接種の種類
4.予防接種の適切なスケジュール
5.予防接種前後の注意点
6.副反応の症状と対処方法
7.まとめ
愛犬・愛猫の健康を守る予防接種とは?
予防接種とは簡単に言えば、弱毒化または無毒化された病原体を体内に注入することで、愛犬や愛猫の免疫システムに「敵」を覚えさせる仕組みです。
この「記憶」ができると、実際に病原体が侵入した際に免疫システムが素早く反応し、病気への感染を防ぐことができます。
言い換えれば、予防接種は愛犬や愛猫の健康を守るために作られた「免疫の盾」とも言えるでしょう。この盾をしっかりと強化することが非常に重要です。
<予防接種を受けないリスク>
予防接種を受けていない場合、以下のようなリスクが高まります。
・命に関わる感染症
狂犬病やジステンパーなど、一度発症すると致死率が高い病気があります。これらの病気を未然に防ぐことが、何よりも大切です。
・治療の負担
感染症にかかってしまうと、高額な治療費や長い治療期間が必要になることがあります。それだけでなく、愛犬や愛猫自身にも大きな身体的・精神的な負担を強いることになります。
・他の動物や人への感染
愛犬や愛猫が感染源となることで、周囲の動物や人にも感染を広げてしまう可能性があります。
<集団免疫の重要性>
予防接種には、愛犬や愛猫を病気から守るだけでなく、社会全体の健康と安全を守るという大切な役割があります。その中でも特に注目したいのが、「集団免疫」という考え方です。
多くの犬や猫が予防接種を受けることで、感染症が広がりにくくなり、社会全体に「免疫の壁」が作られます。感染症の蔓延を防ぐだけでなく、幼い動物や病気のために予防接種を受けられない動物を守ることにもつながります。
犬に必要な予防接種の種類
愛犬が健康で幸せな毎日を送るためには、必要な予防接種をしっかりと把握しておくことが大切です。ここでは、犬に推奨される予防接種を「基礎(コア)ワクチン」と「任意(ノンコア)ワクチン」に分けてご説明します。
<基礎(コア)ワクチン>
コアワクチンは、すべての犬に接種が推奨される基本的なワクチンです。これらは重篤で広がりやすい病気を防ぐため、必ず受けさせましょう。
・犬ジステンパー
高熱、呼吸器症状、神経症状を引き起こし、致死率が非常に高い感染症です。
・犬伝染性肝炎(犬アデノウイルス1型感染症)
重篤な肝不全を引き起こす病気です。
・犬伝染性喉頭気管炎(犬アデノウイルス2型感染症)
呼吸器に感染し、咳、鼻水、発熱などの症状を引き起こします。
・犬パルボウイルス
激しい嘔吐や下痢を伴い、特に子犬にとって致命的な感染症です。
・狂犬病
人間にも感染する人獣共通感染症で、致死率はほぼ100%です。日本では法律により犬への接種が義務付けられています。
<任意(ノンコア)ワクチン>
ノンコアワクチンは、愛犬の生活環境や地域のリスクに応じて接種が推奨されるワクチンです。
・犬レプトスピラ症
水や土壌を介して感染する細菌性疾患で、人にも感染する可能性があります。アウトドア活動が多い場合は特に注意が必要です。
・ケンネルコフ(犬の伝染性気管気管支炎)
咳や鼻水などの呼吸器症状を引き起こします。ドッグランやペットホテルを利用する犬に推奨されます。
・犬コロナウイルス
消化器症状を引き起こす病気で、特に子犬に多く見られる感染症です。
<生活環境や地域によって推奨されるワクチン>
愛犬の暮らす環境や地域によっては、追加で必要なワクチンがある場合があります。
・アウトドアが多い場合
山間部などでは、レプトスピラ症のリスクが高まるため、予防接種が推奨されます。
・都市部で暮らしている場合
都市部では、ケンネルコフに感染するリスクが高いため、予防を検討すると安心です。
猫に必要な予防接種の種類
愛猫が健康で安心して暮らせるよう、予防接種は非常に大切です。
<基礎(コア)ワクチン>
コアワクチンは、すべての猫に接種が推奨される重要なワクチンです。これらの病気は感染力が強く、愛猫の命に関わる可能性があるため、必ず受けさせましょう。
・猫汎白血球減少症(パルボウイルス感染症)
非常に感染力が強く、特に子猫にとって致命的な病気です。下痢や嘔吐、発熱を引き起こし、免疫力を大きく低下させます。
・猫カリシウイルス感染症
呼吸器系の病気で、口内炎や潰瘍、発熱、鼻水などの症状を引き起こします。一部では慢性的な症状に発展する場合もあります。
・猫ウイルス性鼻気管炎(猫ヘルペスウイルス1型感染症)
猫風邪の一種で、咳やくしゃみ、目や鼻からの分泌物が特徴です。症状が重くなると、食欲不振や脱水症状を伴う場合もあります。
<任意(ノンコア)ワクチン>
ノンコアワクチンは、愛猫の生活環境やリスクに応じて接種を検討するワクチンです。
・猫白血病ウイルス(FeLV)
猫同士の接触で感染する病気で、免疫力の低下や慢性の健康問題、腫瘍を引き起こす可能性があります。外猫や多頭飼育の場合、接種が特に推奨されます。
・猫免疫不全ウイルス(FIV)
主に咬傷などを通じて感染し、免疫力を低下させます。発症すると慢性疾患につながるため、多頭飼育や外猫の場合は検討してください。
・クラミジア感染症
結膜炎や呼吸器症状を引き起こす感染症です。外猫や繁殖環境にいる猫において接種が推奨されます。
<室内飼いと外猫での推奨の違い>
・室内飼いの猫
室内猫でも、コアワクチン(パルボウイルス、カリシウイルス、ヘルペスウイルス)は必須です。飼い主様や来客が外からウイルスを持ち込む可能性があるため、愛猫を守るために予防接種を行いましょう。
・外猫(もしくは外出する猫)
外猫の場合、コアワクチンに加えてノンコアワクチン(特にFeLVやFIV)の接種が強く推奨されます。
他の猫との接触や環境中のリスクが高いため、感染症対策を徹底することが重要です。
予防接種、忘れていませんか?適切なスケジュールとその重要性
愛犬や愛猫の健康を守るためには、適切な時期に予防接種を受けさせることが大切です。ここでは、子犬・子猫の初回接種から成犬・成猫の追加接種まで、具体的なスケジュールをご説明します。
<子犬・子猫の初回接種スケジュール>
子犬や子猫は、生まれた直後は母親から受け継いだ免疫を持っていますが、この免疫は徐々に弱まります。このタイミングで予防接種を始めることで、感染症からしっかり守ることができます。
■初回接種
犬も猫も、生後6~8週目からコアワクチンを接種し、追加接種を3~4週間ごとに2~3回行います。
■追加接種(ブースター)
初回接種の最後から1年後に追加接種を行い、その後は定期的な年次接種に移行します。この追加接種は、免疫力を維持するためにとても重要です。
<成犬・成猫の追加接種(年次接種)>
成犬や成猫になっても、予防接種を継続することで感染リスクを抑え、免疫力を維持することができます。
■コアワクチン
一般的に1~3年ごとに接種します。一部のワクチンは3年間の効果が認められていますが、生活環境や地域の感染リスクに応じて接種間隔を調整することが大切です。
■ノンコアワクチン
接種間隔はワクチンや感染リスクによって異なります。
例えば、猫白血病ウイルス(FeLV)や猫免疫不全ウイルス(FIV)は年1回の接種が推奨される場合があります。かかりつけの動物病院で相談して、愛犬や愛猫に適したスケジュールを確認しましょう。
<接種間隔の重要性と守るべき理由>
ワクチンの効果を最大限に引き出し、愛犬や愛猫を感染症から守るためには、接種間隔を守ることがとても重要です。
・免疫力の維持
適切なタイミングで追加接種を行うことで、免疫システムの記憶を強化し、「ブースト効果」を得ることができます。
・感染症予防
接種間隔を守らないと免疫力が低下し、感染症にかかるリスクが高まります。
・地域の集団免疫
愛犬や愛猫だけでなく、周囲の動物や社会全体の感染症予防にもつながります。
予防接種前後の注意点
<接種前の健康チェックの重要性>
予防接種を安全に行うためには、愛犬や愛猫が健康な状態であることが大前提です。
体調が悪い状態で接種を受けると、ワクチンの効果が十分に発揮されないだけでなく、副反応のリスクが高まる可能性があります。そのため、接種前には必ず健康チェックを行いましょう。
■健康状態の確認
予防接種前には、動物病院で必ず健康チェックを受けましょう。特に以下の項目が重要です。
・体温の確認(発熱がないか)
・呼吸や心音の確認(異常がないか)
・消化器症状の確認(下痢や嘔吐がないか)
■過去の接種記録の確認
過去の接種で副反応が出たことがある場合は、獣医師に必ず伝えてください。適切な対応を取るために重要です。
また、不要な接種を避けるために、最新の接種スケジュールも確認してください。
<接種後の観察ポイントと注意事項>
ワクチン接種後は、愛犬や愛猫の様子を数時間から1日程度よく観察することが大切です。接種直後から24時間以内の注意点を以下にまとめました。
■接種後すぐ
接種後30分以内に、重篤な副反応が現れることがあります。病院の待合室や自宅で、次のような症状がないか注意深く観察してください。
・呼吸が浅くなる、または速くなる
・顔や体に腫れや赤みが出る
・嘔吐や下痢が見られる
万が一これらの症状が現れた場合は、すぐに獣医師に連絡し、指示を仰いでください。
■接種後24時間以内
接種後、以下のような軽い副反応が現れることがありますが、ほとんどの場合24時間以内に自然に治まります。
・接種部位の腫れや痛み
・軽い倦怠感や元気の低下
・一時的な食欲減退
これらの症状が長引く場合や悪化する場合は、念のため動物病院に相談してください。
また、ワクチン接種後は激しい運動や興奮を避け、静かに過ごさせましょう。他の動物との接触も控えると安心です。
副反応の症状と対処方法
ワクチン接種による副反応は稀ですが、起こる可能性があるため注意が必要です。副反応の種類や対処方法を把握しておくことで、万が一の場合も冷静に対応できます。
<一般的な副反応>
多くの場合、軽い副反応が一時的に現れることがあります。次のような症状が見られる場合がありますが、通常は数日以内に自然に治まることが多いです。
・軽い発熱
・接種部位の腫れやしこり(数日で消えることがほとんどです)
・元気の低下や眠気
<重篤な副反応(アナフィラキシーショック)>
重篤な副反応は稀ですが、接種後数分から30分以内に発症する可能性があります。次のような症状が現れた場合は、緊急対応が必要です。
・呼吸困難
・顔や喉の腫れ
・意識低下や倒れる
■対処方法
・軽度の副反応の場合
愛犬や愛猫を安静にさせ、様子を見守りましょう。通常、24時間以内に症状が治まりますが、長引く場合は獣医師に相談してください。
・重篤な副反応の場合
すぐに動物病院に連絡し、緊急診察を受けてください。ワクチン接種を行った病院が閉まっている場合でも、夜間救急病院や緊急対応可能な施設を利用してください。
まとめ
予防接種は、愛犬や愛猫を感染症から守るために欠かせない大切な手段です。
ただし、ワクチンの効果を十分に発揮させ、副反応のリスクを抑えるためには、適切なタイミングと健康状態で接種を行うことが重要です。
特に、接種前の健康チェックと接種後の観察は、愛犬や愛猫の安全を守るうえで欠かせません。もし何か異常が見られた場合は、迷わず動物病院に相談してください。
愛犬や愛猫の健康を守るために、予防接種についてしっかり理解し、適切なケアを行いましょう。
北海道札幌市の「アイリス動物医療センター」