犬と猫の心雑音とは?|札幌の循環器認定医が行う心臓病の診断と治療法

「最近、呼吸が少し早いような気がする」「お散歩中にすぐ疲れるようになった」
そんなちょっとした変化が、心臓に何らかの異変が起きているサインである可能性があります。
犬や猫の心臓のトラブルは、見た目だけではわかりにくく、気づきにくいのが特徴です。
特に「心雑音」という言葉を初めて獣医師から聞いたとき、不安や戸惑いを感じる飼い主様も少なくありません。
今回は、心雑音とは何か、その原因や早期発見の重要性、そして当院で循環器診療を専門とする認定医が行う診断と治療の流れについて、わかりやすく解説いたします。
■目次
1.心雑音とは?
2.心雑音の主な原因
3.犬や猫の心臓病の症状とは?|飼い主様が気づける変化
4.心雑音のグレード分類|治療が必要なレベルとは?
5.札幌で受けられる専門医の診察
6.超音波検査・心電図・血圧測定などでわかること
7.治療法とその後のケア|心臓病との向き合い方
8.まとめ
心雑音とは?
心雑音とは、心臓の拍動に合わせて通常では聞こえない異常な音が聴診で確認される状態を指します。
多くの場合、「ザーザー」「シャーシャー」といった濁った音として聞こえ、血液がスムーズに流れていないサインです。
本来、健康な心臓は「ドックン、ドックン」と規則正しく音を立てて拍動しています。
しかし、何らかの原因で血液の流れに乱れが生じると、その音の質が変化し、心雑音として聞こえるようになります。
この異常音を早い段階で見つけられるかどうかが非常に重要です。
定期的な健康チェックや診察の際に、獣医師が聴診で発見することが多く、無症状のうちに見つかることも珍しくありません。
心雑音の主な原因
心雑音の背景には、さまざまな心臓の異常が隠れていることがあります。
以下に、犬や猫でよく見られる代表的な原因をご紹介します。
◆先天性心疾患(生まれつきの心臓の異常)
生まれつき心臓の構造に異常があるケースで、子犬や子猫のうちに見つかることがあります。
例:動脈管開存症、心室中隔欠損など。
◆加齢による変化
中高齢になると、心臓の弁が変性(劣化)しやすくなり、血液の逆流によって心雑音が現れることがあります。
年齢とともに現れる心臓の変化に注意が必要です。
◆弁膜症(弁の異常)
心臓の弁が正常に開閉しなくなることで血流に乱れが生じ、心雑音が発生します。
特に小型犬で多いのが*僧帽弁閉鎖不全症(そうぼうべんへいさふぜんしょう)です。
これは、心雑音の原因として最もよく見られる病気のひとつです。
◆心筋症や高血圧
心臓の筋肉が厚くなる「肥大型心筋症」などが原因で、心雑音が聞こえることがあります。
特にこの病気は、猫に多く見られる代表的な心疾患のひとつです。
また、高血圧によって心臓に過剰な負担がかかることでも、血液の流れが乱れ、心雑音が生じる場合があります。
原因によって、進行のスピードや必要となる治療法が異なるため、まずは正確な診断が欠かせません。
犬や猫の心臓病の症状とは?|飼い主様が気づける変化
心雑音そのものは聴診器を当てなければ確認できませんが、飼い主様が日常生活の中で気づける変化もいくつかあります。
以下のような症状が見られる場合は、心臓に何らかの異常が起きている可能性があります。
・呼吸が浅く、早くなる
・運動中に疲れやすくなる/すぐに座り込む
・咳をする(特に夜間や朝方に多く見られます)
・元気がなくなり、動きが鈍くなる
・お腹が膨らんでくる(胸水や腹水がたまっているサイン)
しかし、心臓病の厄介な点は、症状がまったく現れないまま進行してしまうケースが非常に多いということです。
例えば、健康診断やワクチン接種の際の聴診で初めて心雑音が見つかり、検査をしてみると、すでに中等度以上の弁膜症だったというケースも珍しくありません。
心雑音のグレード分類|治療が必要なレベルとは?
心雑音には「グレード」と呼ばれる分類があり、Levine(レバイン)分類という国際的な基準に基づいて、1〜6の段階に分けられています。
◆グレード1
非常に小さな雑音で、注意深く確認しないと聞き取れないレベル。
◆グレード2
聴診器を当てるとはっきり聞こえるが、比較的弱い雑音。
◆グレード3
明瞭に聞こえる中等度の雑音。異常があることがわかりやすいレベル。
◆グレード4
聴診器を当てた瞬間に聞こえる強い雑音。「スリル」と呼ばれる振動を胸に触れて感じられることもあります。
◆グレード5
聴診器で聴き取れる中では最大級の雑音。振動も強く感じられることがあります。
◆グレード6
聴診器を軽く浮かせても聞こえるほど非常に強い雑音。重度の異常が疑われます。
「グレードが低いから、しばらく様子を見ていても大丈夫ですよね?」と考えてしまいがちですが、グレードが低い=軽症とは限りません。
特に猫では、グレード1〜2の雑音でも重度の心筋症が隠れていることがあります。
また、犬でも弁膜症が短期間で進行し、数か月のうちにグレード3から5まで悪化するケースも少なくありません。
そのため、心雑音が確認された場合は、必ず胸部レントゲンや心臓の超音波(エコー)検査を行い、心臓の構造や機能を詳しく評価することが必要です。
札幌で受けられる専門医の診察
心雑音がある場合、その原因を正確に特定するには、専門的な検査と評価が欠かせません。
当院には、循環器認定医の資格を持つ獣医師が在籍しており、心臓病に特化した専門的な診察を受けていただくことができます。
循環器認定医は、犬や猫の心臓病に関する高度な知識と豊富な臨床経験を持っており、初期のごく軽度な異常から重度の心不全まで、幅広い症例に対応しています。
特に症状が出る前の無症状の段階で病気を見つけ、進行を抑えるための治療や生活指導を行えることは、飼い主様にとって大きな安心につながるポイントです。
「雑音が聞こえる=すぐに重病」というわけではありませんが、専門医による的確な評価を受けることで、正確な診断名や重症度、治療を始める最適なタイミングを把握することができます。
超音波検査・心電図・血圧測定などでわかること
循環器の診察では、聴診だけでなく、心臓の状態をより詳しく評価するための各種検査を組み合わせて行います。
◆心臓超音波検査(心エコー)
心臓の構造や動き、血液の流れをリアルタイムで確認でき、弁膜症や心筋症、先天性疾患の診断に欠かせません。
◆心電図検査(ECG)
心臓の電気的な活動を記録する検査で、不整脈や心拍異常の検出に役立ちます。
◆血圧測定
高血圧や低血圧は心臓に大きな負担をかける要因となるため、血圧の測定は治療方針を決めるうえで非常に重要な指標になります。
◆胸部レントゲン検査
心臓の大きさや形、肺への影響(例:肺水腫の有無)を確認するための検査です。
これらの検査を総合的に組み合わせて評価することで、「今どれくらい心臓に負担がかかっているのか」「薬による治療が必要かどうか」「定期的な経過観察で様子を見る段階なのか」が判断されます。
治療法とその後のケア|心臓病との向き合い方
<病気の進行を抑える内科治療(投薬・モニタリング)>
心雑音が見つかり、心臓病と診断された場合にまず行われるのが内科的治療です。
症状や病気の進行度に応じて、以下のようなお薬が使用されます。
・ACE阻害薬:血管を広げ、心臓の負担を軽減します。
・利尿剤:体内の余分な水分を排出し、肺水腫などのリスクを抑えます。
・強心薬:心筋の収縮力を高め、血液の循環を維持する働きがあります。
これらの薬を適切に組み合わせ、定期的なモニタリング(再検査)を行いながら、心臓への負担をコントロールしていきます。
薬の効果はすぐに実感できないこともありますが、継続して正しく使用することで、症状の安定や進行の抑制につながります。
<外科的選択肢があるケース>
一部の心臓病では、外科手術によって治癒が見込めるケースもあります。
例えば、先天性の心疾患である動脈管開存症(PDA)は、手術によって異常な血管を閉鎖することで、根治が期待できる病気です。
札幌市内にも、こうした手術に対応している施設があり、外科専門医との連携のもと治療の選択肢が広がっています。
また、重度の弁膜症などでも、特定の条件を満たせば外科的治療が検討されることもあります。
外科手術を選ぶ場合は、リスク・効果・術後のケアまで含めてしっかりと説明を受けたうえで、慎重に判断することが大切です。
<ご家庭での注意点と通院管理のポイント>
心臓病と診断された後は、病院での治療だけでなく、ご家庭での毎日のケアがとても重要です。
以下のポイントを意識しながら、愛犬・愛猫の生活をサポートしてあげましょう。
◆興奮や過度な運動を避ける
急な心臓への負担を防ぐためにも、落ち着いた静かな環境で過ごせるように心がけましょう。
◆体重管理
肥満は心臓への大きな負担となるため、適正な体重を維持することが大切です。
食事内容の見直しや運動量の調整については、獣医師と相談しながら進めていきましょう。
◆投薬の継続と飲み忘れ防止
お薬の飲み忘れは治療の効果に影響を及ぼします。
あらかじめ投薬スケジュールを決めたり、記録をつけたりすることで、確実に継続できるように工夫しましょう。
◆異変の早期発見
呼吸が荒くなる、咳が増える、元気がなくなるなどの変化にはすぐに対応できるよう、日々の観察を心がけましょう。
◆定期通院と再検査の継続
症状が安定していても、病状は少しずつ進行している可能性があります。
診察を通じて状態を把握し、必要に応じて治療内容の調整を行うことが重要です。
まとめ
心雑音は、犬や猫の心臓から発せられる大切なサインです。
その小さな音の裏に、進行性の心臓病が隠れていることもあり、たとえ無症状であっても注意が必要です。
当院には、循環器認定医の資格を持つ獣医師が在籍しており、心臓病に対する専門的な診察・検査・治療を行える体制が整っています。
心臓の超音波検査(エコー)や心電図、血圧測定などを組み合わせた精密な検査によって、早期発見・早期対応が可能です。
たとえ心臓病と診断された場合でも、内科治療によって症状を安定させ、長く健やかな生活を送ることができるケースは多くあります。
愛犬・愛猫の呼吸や行動に「いつもと違うかも?」と感じたときは、お気軽に当院までご相談ください。
北海道札幌市の「アイリス動物医療センター」