「眠ったまま起きなかったら……」犬や猫の全身麻酔のリスクと安全性を獣医師が解説

愛犬や愛猫の手術や歯科処置で全身麻酔が必要になると、不安なお気持ちになる飼い主様は少なくありません。
「高齢でも大丈夫かな」「ちゃんと目を覚ましてくれるだろうか」
そんな心配の声もよく耳にします。
今回は、犬や猫の全身麻酔について目的やリスク、そして安全性を高めるための取り組みをわかりやすく解説します。
麻酔専門医も在籍するアイリス動物医療センターの取り組みを交えながら、飼い主様に安心していただける内容をお届けします。
■目次
1.犬猫における全身麻酔とは?
2.麻酔にリスクはある?
3.進歩する獣医麻酔学と安全性の向上
4.飼い主が知っておきたい麻酔前の準備と体制
5.札幌での麻酔管理|当院の取り組みと実績
6.まとめ
犬猫における全身麻酔とは?
全身麻酔の目的は、犬や猫の意識と痛みの感覚をコントロールし、治療中のストレスや苦痛を取り除くことにあります。単に「眠らせる」だけではなく、安全に・確実に・動かずに処置をするために欠かせない医療行為です。
実際の麻酔には、吸入麻酔薬(気体を吸わせて作用させるもの)や静脈麻酔薬(血管から投与するもの)が使われます。これらは人の医療とほぼ同じ方法で、専用の医療機器を用いながら体の状態を細かく管理して進められます。
全身麻酔が必要となる処置は幅広く、下記のような場面が挙げられます。
・避妊・去勢手術などの一般外科
・腫瘍摘出などの軟部外科手術
・骨折整復や関節の手術
・内視鏡検査や処置
・歯石除去や抜歯などの歯科処置
このように、犬や猫にできるだけ苦痛を与えず、安全に治療をするために、全身麻酔は欠かせない役割を果たしています。
麻酔にリスクはある?
「麻酔は怖いもの」というイメージを持たれる飼い主様は少なくありません。実際には、麻酔はどんなに優れた薬剤や機器を用いてもゼロリスクではないというのが正確な表現です。
以下のような状況ではリスクが高まる可能性があります。
・心臓病:不整脈や心拍の異常が麻酔中に悪化する
・腎臓や肝臓の病気:麻酔薬の代謝や排泄に支障をきたす
・個体差(高齢・肥満・低体重):体への負担が大きく合併症のリスクが高い
・アレルギーや過去の異常反応:過去に強い反応を示した場合は注意が必要
ただし、健康な犬の麻酔による死亡率はおよそ0.05%、猫でも0.1%前後と報告されており、適切な管理をすれば極めて低い水準に抑えられます。さらに近年では獣医麻酔学の進歩によって安全性はさらに高まりつつあります。
大切なのは「麻酔を避ける」ことではなく、その子に合わせて最も安全な方法を選び、安心して治療を受けられるようにすることです。
進歩する獣医麻酔学と安全性の向上
近年、獣医療の麻酔技術は大きく進歩しています。特に注目すべきは次の3点です。
<麻酔薬の改良>
現在の麻酔薬は副作用が少なく、代謝や排泄も速やかです。そのため短時間で覚醒でき、術後の回復も良好です。
<モニタリングと麻酔監視>
心拍・呼吸・血圧・体温・酸素濃度・麻酔の深さなどをモニターで確認し、獣医師や動物看護師がリアルタイムで麻酔監視をおこないます。異常があればすぐに対応できる体制が整っています。
<術前検査と術後管理>
術前には血液検査や画像検査により、その子に合った麻酔プランを作成します。処置後も覚醒するまでモニタリングを続け、必要に応じて点滴や保温でサポートします。
こうした取り組みにより、以前は「危ない」と思われがちだった全身麻酔は、今では犬や猫にとって安心して受けられる医療技術へと進化しています。
飼い主が知っておきたい麻酔前の準備と体制
安心して麻酔を受けるためには、事前の準備がとても大切です。当院では下記のような流れで治療を進めていきます。
<麻酔前検査>
血液検査や心電図、胸部レントゲン、超音波検査などで全身の状態をしっかり評価します。
<麻酔薬の選択と調整>
体重や年齢、持病、生活環境を考慮し、その子に最も適した薬剤と投与量を決定します。
<モニタリングとチーム管理>
手術中は獣医師(麻酔科医)と動物看護師が協力し、麻酔の深さや心拍、呼吸、体温などを常時監視します。万が一の変化にも迅速に対応できる体制を整えています。
大切な家族である犬や猫が安心して治療を受けられるため、当院では麻酔管理に最善を尽くしています。
札幌での麻酔管理|当院の取り組みと実績
札幌市白石区にあるアイリス動物医療センターでは、全身麻酔を必要とする治療に対し、安心と安全を第一に考えた体制を整えています。認定獣医師や麻酔専従医が在籍し、専門的な知識と経験に基づいた麻酔管理をおこなっています。
◆経験豊富な獣医師が対応
小型犬・大型犬・猫など幅広い動物に対応するため、症例経験豊富なスタッフが麻酔計画から管理まで一貫して担当します。
◆最新の医療機器を完備
高精度の麻酔モニターや人工呼吸器を導入しており、呼吸や循環の変化にも即時対応できる体制を整えています。
◆術前・術後のケアも万全
手術前の不安を取り除くためのカウンセリングや、術後の痛み管理、食欲や行動の観察なども丁寧におこなっています。
◆セカンドオピニオン・他院紹介症例も受け入れ
全身麻酔に不安を感じている飼い主様からのご相談や、他院で「高齢だから」「持病があるから」麻酔が難しいと判断された難症例にも対応しています。
札幌エリアでも充実した設備と体制を整えており、白石区はもちろん、近隣の東区・厚別区・中央区からも多くの飼い主様にお越しいただいています。
まとめ
麻酔に絶対の安全はありませんが、事前検査と一頭ごとの丁寧な管理によってリスクを大きく抑えることができます。
当院では、手術中や術後の痛みにも真剣に取り組み、犬や猫が少しでも安心して過ごせるように努めています。
「うちの子に麻酔は大丈夫かな?」といった小さな悩みや不安もお気軽にご相談ください。
犬や猫、そして飼い主様の心に寄り添いながら、安心できる医療をご提供します。
北海道札幌市の「アイリス動物医療センター」
011-876-8683
<参考文献>
Brodbelt DC, Blissitt KJ, Hammond RA, et al. The risk of death: the Confidential Enquiry into Perioperative Small Animal Fatalities. Vet Anaesth Analg. 2008;35(5):365–373.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18466167/ (アクセス日: 2025年9月4日)