犬の副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)とは?症状と治療法を獣医師が解説
「最近、水を飲む量が増えた」「お腹だけぽっこりしてきたけれど、年のせいかな?」その症状、実は副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)というホルモンの病気かもしれません。放置すると全身の臓器に深刻なダメージを与えるこの病気について、獣医師が詳しく解説します。
目次
1. 副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)の定義
副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)とは、腎臓の隣にある「副腎」という小さな臓器から、コルチゾール(副腎皮質ホルモン)が過剰に分泌されてしまう病気です。
本来、コルチゾールは代謝の調節やストレスへの対抗に欠かせないホルモンですが、過剰な状態が続くと全身の臓器に深刻なダメージを与えます。
【発生率】
7歳以上の高齢犬に多く内分泌疾患の中では非常に遭遇頻度の高い病気です。
【好発犬種】
プードル、ミニチュア・ダックスフンド、ポメラニアンなど。
【主な原因】
約80〜90%が脳下垂体の異常、10〜20%が副腎自体の腫瘍によるものです。
[出典:日本獣医内科学アカデミー編「獣医内科学」]
2. 放置するとどうなるか?リスクの数値的根拠
「加齢による変化」と見過ごされがちですが、放置は禁物です。適切なコントロールを行わない場合、以下のような合併症のリスクが高まります。
【糖尿病の併発】
クッシング症候群の犬の約10%が糖尿病を併発すると報告されています。
【血栓症・肺塞栓症】
血液が固まりやすくなり、急死の原因となる血栓を形成するリスクがあります。
【感染症の慢性化】
免疫力が低下し、重度の膿皮症や膀胱炎を繰り返すようになります。
【全身への影響】
腫瘍随伴症候群による悪液質(全身の消耗)が進み、筋肉の萎縮によって歩行が困難になるケースもあります。
3. 治療法の比較:根治から緩和ケアまで
当院(アイリス動物医療センター)では、「病気のときよりも治療を受けたときの方が快適に過ごせること(QOLの維持)」を治療の軸としています。
| 治療法 | 内容 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| 内科療法(投薬) | ホルモンの合成を抑える薬の服用 | 身体への負担が少なく、第一選択となることが多い | 生涯の投薬と定期的な血液検査が必要 |
| 外科手術 | 異常のある副腎や下垂体を摘出 | 成功すれば根治(完治)が期待できる | 高度な技術が必要で、麻酔リスクがある |
| 緩和ケア | 対症療法・食事管理 | 無理のない範囲で穏やかな生活を目指す | ホルモン値そのものの改善は難しい |
4. 早期発見チェックリストと負担の少ない検査
ご家庭で以下のサインがないかチェックしてみてください。
- □ 水を飲む量が急激に増えた(多飲多尿)
- □ 異常に食欲が増した、常に食べ物を探している
- □ 左右対称に毛が抜ける、皮膚が薄くなった
- □ お腹だけがポッコリと膨らんできた(太鼓腹)
当院では、麻酔を必要としない低侵襲な検査(超音波検査や血液検査)を優先し、
わんちゃんの負担を最小限に抑えながら診断を行います。
5. 獣医師がお答えするFAQ
Q. 高齢ですが、今から治療を始めるべきでしょうか?
A. クッシング症候群は進行性の病気です。治療により「多尿が収まりぐっすり眠れるようになった」「毛が再び生え揃った」など、QOLが劇的に改善する症例も多くあります。その子の状態に合わせた無理のないプランを提案します。
Q. 治療費はどのくらいかかりますか?
A. 体重や使用する薬の量によりますが、月額1〜2万円前後からスタートすることが一般的です。私たちは飼い主様を「治療チームの一員」と考え、費用面も含めて最適な方法を一緒に考えます。
執筆者プロフィール
アイリス動物医療センター 院長/獣医師
「ただ治すだけでなく、穏やかな時間を守ること」をモットーに、最新の医療機器と専門知識を活かした低侵襲治療を提供。地域の皆様に寄り添うチーム医療を実践しています。