犬のアトピー性皮膚炎とは?|原因から日常ケアまで徹底解説

愛犬が毎日体を掻いている姿を見て、「どうしてあげたらいいのだろう」と悩まれる飼い主様は多いかもしれません。
犬のアトピー性皮膚炎は、愛犬自身にとっても、そばで見守る飼い主様にとっても、とても辛い疾患です。
しかし、適切な治療と日々のケアを行えば、症状をうまくコントロールし、愛犬が快適な生活を送れるようになる可能性があります。
今回は、アトピー性皮膚炎の原因や症状について詳しくお伝えするとともに、症状の進行を防ぐためのポイントをわかりやすく解説します。
■目次
1.犬のアトピー性皮膚炎とは?
2.アトピー性皮膚炎の症状と特徴
3.アトピー性皮膚炎を放置するとどうなる?
4.診断方法
5.治療方法
6.日常生活での管理とケア
7.まとめ
犬のアトピー性皮膚炎とは?
アトピー性皮膚炎とは、特定の物質(アレルゲン)に対して免疫システムが過剰に反応することで発症する疾患です。
本来、免疫システムは体を守るために働くものですが、アレルゲンを「敵」と間違えて認識してしまうことで、炎症やかゆみを引き起こします。
アレルゲンの代表的な例として、以下のようなものが挙げられます。
・ダニやホコリ
・花粉
・食べ物(特定のタンパク質など)
・カビや真菌
<遺伝的要因と環境要因>
アトピー性皮膚炎は、遺伝的な素因を持つ犬に多く見られることが特徴です。
例えば、両親や血縁関係の犬がアレルギー体質の場合、その傾向が子犬に遺伝する可能性があります。
さらに、生活環境も発症に影響を与えます。特に室内飼育が一般的な環境では、ダニやホコリに触れる機会が増えるため、アレルギーのリスクが高まることがあります。
<発症しやすい犬種や年齢>
以下のような犬種は、アトピー性皮膚炎を発症しやすいとされています
・柴犬
・シーズー
・フレンチ・ブルドッグ
・レトリーバー種
一般的に、症状は1〜3歳頃の若い時期に現れることが多いですが、環境や体質によってはさらに早く、またはシニア期になってから発症する場合もあります。
アトピー性皮膚炎の症状と特徴
アトピー性皮膚炎の主な症状は以下の通りです。
・かゆみ:頻繁に体を掻いたり、舐めたり、噛むような行動をする場合は、強いかゆみを感じているかもしれません。
・発赤:皮膚が赤くなり、炎症が目立つ部分が見られることがあります。
・乾燥やフケ:皮膚が乾燥してしまい、白いフケが目立つことがあります。
・毛の抜けやすさ:強いかゆみから掻きむしることで、毛が薄くなったり抜けてしまう部分ができることがあります。
<症状が出やすい部位>
アトピー性皮膚炎の症状は、愛犬の体の特定の部位に集中して現れることが多いです。特に次のような部位は、アレルゲンに触れやすいため注意が必要です。
・耳の内側
・顔周り
・脇の下
・おなか
・足の指の間
<季節性の影響>
アトピー性皮膚炎の症状は、花粉症のように季節によって悪化する場合があります。特に春や秋は、花粉や草木が原因で症状が強くなることが多いため注意が必要です。
一方で、ダニやホコリが原因の場合は、一年を通して症状が続くことがあります。
アトピー性皮膚炎を放置するとどうなる?
アトピー性皮膚炎を放置すると、愛犬の体にさまざまな影響を及ぼす可能性があります。次のようなリスクがあるため、早めの対応が大切です。
◆症状の悪化
かゆみや炎症が次第に広がり、愛犬が掻きむしったり噛む行動が増えたりすることで皮膚に傷がついてしまいます。その結果、さらに強いかゆみを引き起こし、症状が悪循環に陥ることがあります。
◆二次感染
傷口から細菌や真菌が侵入し、膿皮症や皮膚炎といった二次感染が発生することがあります。これにより、皮膚の腫れや膿、痛みが加わり、症状が重篤化してしまいます。
二次感染が進行すると、治療期間が長引くこともあるため注意が必要です。
◆慢性的な状態
アトピー性皮膚炎が長期間放置されると、皮膚が硬く厚くなる「苔癬化(たいせんか)」という状態になることがあります。
これにより、皮膚の柔軟性が失われ、治療がさらに難しくなる場合があります。
慢性化を防ぐためにも、症状が軽いうちに適切なケアを始めることが大切です。
診断方法
<アトピー性皮膚炎の診断基準>
アトピー性皮膚炎の診断は、次の8つの基準をもとに進められます。獣医師がこれらの基準に該当する項目を確認し、その他の可能性を排除した上で総合的に判断します。
一般的には、5つ以上該当する場合、アトピー性皮膚炎である可能性が高いと考えられます。
1.初発年齢が 3 歳未満
2.飼育環境のほとんどが室内
3.コルチコステロイド治療によって痒みが治まる
4.慢性的あるいは再発性のマラセチア感染症
5.前肢に皮膚病変が見られる
6.耳介部(耳の内側)に皮膚病変が見られる
7.耳介の辺縁に皮膚病変が見られない
8.腰背部(背中~腰のあたり)に皮膚病変が見られない
これらの基準は目安であり、実際には症状や検査結果を総合的に判断して診断が行われます。
<動物病院で行われる検査>
アトピー性皮膚炎の診断では、具体的な検査を行い、症状の原因やアレルゲンを特定します。
◆血液検査
血液検査では、血液中のIgE抗体(アレルギー反応に関与する抗体)のレベルを測定します。
この検査は比較的簡単に行うことができ、アレルゲンの特定を進めるうえで役立つ初期診断の方法です。
ただし、皮内テスト(アレルゲン皮膚試験)と比較すると、アレルゲンの特定精度がやや劣る場合があるため、血液検査の結果をもとに必要に応じて追加の検査を行うことが推奨されます。
◆皮内テスト(アレルゲン皮膚試験)
小さな針で皮膚にアレルゲンを少量注入し、赤みや腫れの反応を観察する検査です。
この方法は特に信頼性が高く、詳細な情報が得られるため、アレルゲンを特定し、治療方針を決める際に非常に重要です。
検査にはやや時間がかかり、愛犬に多少のストレスがかかる場合もありますが、獣医師が慎重に進めるため、過度に心配する必要はありません。精度の高い結果が得られることから、効果的な治療計画につながる検査といえます。
◆除去試験
食物アレルギーが疑われる場合に実施される方法です。
この検査では、アレルゲンの可能性がある特定の食材を愛犬の食事から除去し、代わりにアレルギー反応を引き起こしにくい特別な食事を一定期間与えます。その後、症状が改善するかを観察してアレルゲンの特定を進めます。
この方法は少し時間がかかりますが、食物アレルギーを正確に診断するためには非常に有効です。
<その他の検査>
アトピー性皮膚炎の診断や治療計画を進めるためには、以下のような追加検査が行われることがあります。
◆血液検査
アレルギー以外の原因が疑われる場合に実施されます。たとえば、ホルモン異常や内臓疾患が関係している場合、血液検査を通じてそれらを特定することができます。
また、全身の健康状態を確認し、合併症の有無をチェックする際にも役立ちます。
◆皮膚検査
・皮膚掻爬検査:皮膚の表面を軽く削り、そのサンプルを顕微鏡で観察する検査です。この方法では、皮膚に細菌や真菌、寄生虫が存在しているかを調べることができます。
・テープ検査:粘着テープを皮膚に貼り、そのサンプルを顕微鏡で観察することで、細菌や真菌の存在を確認する検査です。
治療方法
アトピー性皮膚炎の治療は、愛犬の症状を和らげ、快適な生活をサポートすることを目的としています。ここでは、代表的な治療法をご紹介します。
<薬物治療>
薬物治療は、愛犬のかゆみや炎症を抑え、日常生活をより快適にするための重要な治療のひとつです。症状に応じて、内服薬や外用薬が処方されます。
◆内服薬
・抗ヒスタミン薬
かゆみやアレルギー反応を抑えるために使用されます。効果には個体差がありますが、副作用が少ない点が特徴です。
・ステロイド薬
即効性があり、強い炎症やかゆみを短期間で抑えるのに非常に効果的です。ただし、長期間使用すると副作用(体重増加、免疫抑制など)のリスクがあるため、獣医師の指示に従って使用してください。
・免疫抑制剤
アレルギー反応を根本から抑える薬で、ステロイドの代替または併用薬として使われることがあります。
◆外用薬
・抗炎症クリームや軟膏
局所的な炎症やかゆみを和らげるために使用します。
・保湿剤
皮膚の乾燥を防ぎ、バリア機能をサポートするために使用されます。
<シャンプー療法>
シャンプー療法は、愛犬の皮膚を清潔に保ち、アレルゲンや細菌を除去するために非常に効果的な方法です。適切なシャンプーを使用することで、皮膚のバリア機能を回復させ、乾燥やかゆみを軽減する効果が期待できます。
◆正しいシャンプーのポイント
・適切なシャンプーを選ぶ
獣医師が推奨する低刺激の薬用シャンプーを使用しましょう。抗炎症成分や保湿成分が含まれているものがおすすめです。
・ぬるま湯を使う
お湯の温度は30〜35度が理想的です。熱すぎるお湯は皮膚を乾燥させてしまうことがあるため、適温を保つことが大切です。
・正しい洗い方
優しくマッサージするように洗いましょう。特に耳や足の指の間は汚れが溜まりやすく、炎症が起こりやすい部分なので丁寧に洗ってください。
・十分にすすぐ
シャンプー成分が皮膚に残ると刺激になることがあるため、しっかりとすすぎましょう。
・保湿ケアを行う
シャンプー後には、獣医師が推奨する保湿スプレーやクリームを使い、乾燥を防ぎながら皮膚のバリア機能をサポートしましょう。
・シャンプーの頻度
アトピー性皮膚炎の管理には、週1~2回のシャンプーが推奨されることが多いです。ただし、愛犬の皮膚の状態や症状に応じて、獣医師の指導に従い頻度を調整してください。
<その他の対策>
◆環境管理
ダニやホコリを減らすために、掃除機と湿らせた布での拭き掃除をこまめに行いましょう。また、空気清浄機を活用すると、花粉やホコリの除去に効果的です。
◆食事療法
特定の食材がアレルゲンと判明した場合は、獣医師の指導のもとでアレルギー対応のフードに切り替えることが大切です。
◆免疫療法
アレルゲンを少量ずつ注射することで、愛犬の免疫システムを徐々に訓練し、アレルギー反応を抑えることを目指す治療法です。
アトピー性皮膚炎の根本的な治療として、獣医療においても今後ますます注目されている治療法です。
日常生活での管理とケア
犬のアトピー性皮膚炎は、日常生活の中での丁寧なケアが、症状の悪化を防ぎ、愛犬の快適な生活を支える重要なポイントになります。
<食事管理とサプリメントの活用>
アトピー性皮膚炎を管理するためには、適切な食事を選び、必要に応じてサプリメントを活用することが大切です。
◆アレルギー対応フード
鶏肉、牛肉、小麦などの特定の食材がアレルゲンとなり、症状を悪化させる可能性があるため、食事を見直すことが重要です。
まずは獣医師の指導を受け、アレルゲンを含まないアレルギー対応の療法食を選びましょう。適切なフードに切り替えることで、症状の軽減が期待できます。
さらに、高品質で栄養バランスが整ったフードを選ぶことで、愛犬の皮膚の健康や免疫力を内側からサポートすることも大切です。
◆サプリメントの活用
食事に加えて、以下のようなサプリメントを活用すると、皮膚の健康をさらにサポートできます。
・オメガ3脂肪酸
抗炎症作用があり、皮膚のバリア機能を強化します。魚由来のサプリメントが一般的です。
・ビタミンE
抗酸化作用があり、皮膚の細胞を守りながら健康を維持する効果があります。
・プロバイオティクス
腸内環境を整えることで、免疫機能をサポートします。健康な腸内環境は皮膚の状態にも良い影響を与えます。
これらのサプリメントを使用する際は、必ず獣医師に相談し、適切な量や種類を確認してください。
<環境整備(掃除、寝具の管理など)>
環境を清潔に保つことは、アレルゲンへの接触を減らし、アトピー性皮膚炎の症状を軽減するために欠かせません。以下のポイントを参考に、日常の環境管理を見直してみましょう。
◆部屋を清潔に保つ方法
ダニやホコリを減らすためには、こまめな掃除が欠かせません。掃除機をかけるだけではなく、湿らせた布で拭き掃除をすることで、アレルゲンをより効果的に取り除くことができます。特に、愛犬がよく過ごす場所や寝床の周りは念入りに掃除をするのがおすすめです。
また、空気清浄機を活用することで、空気中に漂う花粉やホコリを除去しやすくなります。特に、花粉が多く飛ぶ春や秋、または換気が難しい冬場には大いに役立ちます。
◆寝具の清潔を保つ方法
犬用の寝具は、洗濯可能な素材を選び、こまめに洗濯することが大切です。洗濯には低刺激性の洗剤を使用し、洗剤が残らないようにしっかりとすすぎましょう。特にアトピー性皮膚炎の愛犬には、洗剤の残留が刺激になることがあるため注意が必要です。
また、洗濯後は十分に乾燥させ、天日干しをすることで、カビやダニの繁殖を防ぐことができます。
◆外出後の簡単なケア
散歩や外遊びから帰った後は、濡れたタオルで愛犬の足や体を優しく拭き取り、花粉やホコリをしっかりと除去しましょう。特に春や秋の花粉が多い季節や、湿気が高い時期には、外出後のケアを徹底することが重要です。
足や顔周りはアレルゲンが付きやすい部分なので、丁寧に拭いて清潔に保つことで、アトピー性皮膚炎の症状悪化を防ぐことが期待できます。
まとめ
犬のアトピー性皮膚炎は、スキンケア、食事管理、環境整備を日常的に丁寧に行うことで、症状を大きく改善することができます。
皮膚を清潔に保つためのシャンプーや保湿ケア、栄養バランスの取れた食事とサプリメントの活用、そして清潔な生活環境の整備が、症状管理の重要なポイントです。
飼い主様のちょっとした工夫と愛情が、愛犬の快適な毎日を支える力になります。症状が改善しない場合や新たな問題が生じた際には、ぜひ当院にご相談ください。
北海道札幌市の「アイリス動物医療センター」