犬や猫のがんは早期発見がカギ|見逃さないための初期症状と対処法

近年、犬や猫において「がん(腫瘍)」と診断されるケースが増えています。
その背景には、獣医療の進歩によって平均寿命が延び、高齢期を迎える犬や猫が多くなってきたことが関係しています。
人と同じように、加齢とともに発症リスクが高まる病気のひとつが「がん」であり、今ではペット医療において避けて通れない、非常に重要な課題となっています。
「がん」と聞くと、「もう助からないのでは…」と不安に感じる飼い主様もいらっしゃるかもしれません。
けれど、がんは早期に発見し、適切な治療を行うことで、生活の質(QOL)を保ちながら、愛犬・愛猫と過ごせる時間をしっかり延ばすことが可能です。
今回は、犬や猫のがんについて、正しい知識と早期発見・治療のポイントをわかりやすくご紹介いたします。
■目次
1.犬や猫に発症しやすいがんの種類と症状
2.がんの早期発見方法
3.がん治療の選択肢
4.がん治療中のご自宅でのケアと生活サポート
5.まとめ
犬や猫に発症しやすいがんの種類と症状
犬や猫に多く見られる「がん」には、いくつかのタイプがあります。犬では「乳腺腫瘍」「肥満細胞腫」「リンパ腫」などが多く、猫では「扁平上皮がん」「リンパ腫」「鼻腔内腫瘍」などが代表的です。
また、犬種・猫種によって発症しやすいがんの種類が異なることも知られています。
例えば、ゴールデン・レトリバーはリンパ腫や血管肉腫のリスクが高く、猫ではペルシャやシャム猫に乳腺腫瘍が多く見られる傾向があります。
年齢との関連も深く、特に7歳を過ぎたシニア期以降はがんの発症リスクが高まるため注意が必要です。
飼い主様に気をつけていただきたい初期症状としては、以下のような変化が挙げられます。
・食欲の低下や体重減少
・しこりや腫れ(特に大きくなるもの)
・皮膚の異常(ただれ、出血、治りにくい傷)
・呼吸が荒い、咳が続く
・排尿・排便の異常
・元気がない、動きが鈍い
これらの症状はがんに限らず、他の病気でも見られることがありますが、「いつもと違う」と感じたら、早めに動物病院へ相談することが大切です。
がんの早期発見方法
がんを早期に発見することは、予後(治療後の経過)を良好に保つうえで非常に重要です。早い段階で見つけることができれば、がんがまだ広がっていない状態で治療を始めることができ、治療の選択肢が広がります。結果として、完治や長期的な管理が可能になるケースも少なくありません。
日常的に意識していただきたいチェックポイントは以下の通りです。
・毎日のスキンシップの中で、しこりや腫れがないか触ってみる
・食欲や元気の変化に敏感になる
・排尿・排便の様子や量を確認する
・毛づやや皮膚の状態をよく観察する
こうした小さな変化に気づける「日々の目」が、がんの早期発見につながります。
また、年に1回以上の健康診断や血液検査、画像診断(レントゲン・超音波など)も効果的です。特に高齢の犬や猫には、半年に1回の健康診断をおすすめします。
がん治療の選択肢
愛犬・愛猫ががんと診断された場合、治療にはいくつかの選択肢があります。それぞれの治療法にはメリットや注意点があり、状態や生活環境に応じた最適な方法を検討することが大切です。
<外科手術>
腫瘍が限られた範囲にとどまっている場合、手術によって摘出することで根治が目指せることがあります。
腫瘍の大きさや位置によって手術の難易度は異なりますが、早期であれば高い効果が期待できる治療法のひとつです。
<抗がん剤治療>
全身に広がるタイプのがんや、手術が難しいケースに用いられます。
副作用が心配されることもありますが、最近では副作用をできるだけ抑えるための治療計画が工夫されており、体力が落ちている犬や猫でも治療を続けられる場合があります。
<放射線治療>
局所的ながんの進行を抑えるために用いられる治療法で、特定の腫瘍に対して有効です。
ただし、基本的に1回ごとの照射に全身麻酔が必要となるため、設備や費用面の関係から、限られた施設での実施となることが一般的です。
<緩和ケア・支持療法>
根治が難しい場合でも、痛みや不快感を和らげ、生活の質(QOL)を保つためのケアが可能です。食欲の改善や苦痛の軽減などを目的とし、愛犬・愛猫らしい毎日をできるだけ長く保つことを目指します。
治療方針を決める際には、がんの種類や進行の程度だけでなく、年齢や体力、性格、生活環境、さらには飼い主様のご希望や経済的な負担など、さまざまな要素を総合的に考慮する必要があります。
担当の獣医師とよく話し合いながら、無理のない、納得のいく治療方法を一緒に選んでいくことが大切です。
がん治療中のご自宅でのケアと生活サポート
がん治療は、動物病院での診療だけでなく、ご家庭でのケアも非常に大切な役割を担います。愛犬・愛猫が少しでも快適に過ごせるよう、日常生活の中で意識していただきたいポイントをご紹介します。
◆食事管理
治療の影響で食欲が落ちることもあります。無理なくカロリーが摂れるよう、嗜好性の高いフードや、栄養補助食品を取り入れてみましょう。
与える量やタイミングについては、獣医師と相談しながら調整していくのが安心です。
◆痛みや不快感への対応
痛みや体のだるさを感じていることもあるため、過度な運動は避け、できるだけ静かで落ち着いた環境を整えてあげましょう。
処方された鎮痛薬は、指示通りに正しく使うことが大切です。
◆副作用の観察と早めの対応
抗がん剤治療では、嘔吐・下痢・脱毛・倦怠感などの副作用が見られる場合があります。日頃から様子をよく観察し、少しでも「いつもと違う」と感じたら、すぐに動物病院へ相談しましょう。
◆精神的なサポート
飼い主様の穏やかな声かけや変わらない愛情は、愛犬や愛猫にとって大きな安心となります。無理のない範囲で、そばにいてあげる時間を大切にしてあげてください。安心できるおうちの時間が、治療の支えになります。
まとめ
犬や猫にとってがんは特別な病気ではなく、誰にでも起こりうる身近な病気のひとつです。
しかし、「がん=終わり」ではありません。早期に発見し、適切な治療やサポートを行うことで、穏やかで充実した毎日を過ごすことも十分に可能です。
日常のちょっとした変化に気づき、早めに動物病院で診察を受けることが、愛犬・愛猫の未来を大きく左右します。
当院では、がんの早期発見・診断から治療、そしてご家庭での生活サポートまで、飼い主様と愛犬や愛猫に寄り添ったトータルケアを行っておりますので、不安なことや気になる症状がありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
大切なご家族が少しでも安心して過ごせるよう、私たちがしっかりとサポートいたします。
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・腫瘍科
北海道札幌市の「アイリス動物医療センター」