犬や猫の糖尿病とは?|症状から治療法、緊急時の対応まで徹底解説

近年、犬や猫にも「糖尿病」が増えてきていることをご存じでしょうか?
「糖尿病」と聞くと、「重い病気」や「治療が難しそう」といったイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、糖尿病は適切なケアと管理を続ければ、愛犬や愛猫が元気に生活を送ることも十分可能です。
特に重要なのは、早期発見と早期治療です普段の生活の中で愛犬や愛猫の小さな変化に気付き、早めに対応することで、病気の進行を抑えることができます。
今回は、犬と猫の糖尿病について、早期発見のポイントから治療方法、日々のケアに至るまで、解説します。
■目次
1.犬や猫の糖尿病とは?
2.初期症状に気付くためのポイント
3.糖尿病の診断方法
4.治療方法と管理方法
5.緊急時の対応と注意点
6.まとめ
犬や猫の糖尿病とは?
糖尿病は、体内で血糖値を調整するホルモンである「インスリン」が不足したり、うまく働かなくなったりすることで血糖値が高くなってしまう病気です。
この高血糖の状態が続くと全身の臓器や代謝に影響を及ぼし、健康を損なう原因となります。
糖尿病には2つのタイプがあり、インスリンがほとんど分泌されない「1型糖尿病」と、インスリンの効きが悪くなる「2型糖尿病」に分けられます。
日本人では、1型がわずか3%、2型が97%と、ほとんどが2型糖尿病と言われていますが、犬と猫では少し事情が異なります。犬では1型糖尿病が多く、猫では2型糖尿病が一般的です。
<犬の場合>
犬の糖尿病は「1型糖尿病」が多く見られます。このため、インスリン注射が治療の中心となることがほとんどです。
また、糖尿病の発症リスクが高い犬種としては、プードル、ミニチュアシュナウザー、ダックスフンド、ビションフリーゼなどが知られています。
特に、中年齢(6〜10歳)の犬に多く見られるため、この年代に差し掛かる愛犬の場合は、健康診断や日々の観察をより丁寧に行いましょう。
<猫の場合>
猫では、「2型糖尿病」が多く見られます。この場合、生活習慣の見直しや食事管理を行うことで血糖値をコントロールできるケースもあります。
しかし、病気が進行すると犬と同様にインスリン注射が必要になることもあります。
リスクが高いとされる猫種は、バーミーズやアメリカンショートヘアなどが知られていますが、雑種の猫でも発症する可能性があります。
また、8歳以上のシニア猫で発症が増える傾向があるため、年齢を重ねた愛猫の場合は特に注意が必要です。
初期症状に気付くためのポイント
糖尿病は、初期段階では軽い症状が多いため見過ごされがちです。犬と猫では糖尿病のタイプや症状に若干の違いがあるため、それぞれの特徴をしっかり理解しておきましょう。
<共通して見られる症状>
・多飲多尿:喉が乾きやすくなり、水を飲む量が増えることで、尿の量やトイレの回数が増える。
・体重減少:通常どおり食事を与えていても、栄養が十分に吸収されないため痩せていく。
・病気が進行した場合の症状:食欲不振、嘔吐、脱水症状が見られ、さらに重篤になると昏睡状態に陥ることもあります。この段階では命の危険があるため、緊急対応が必要です。
<犬の症状>
犬の糖尿病は主に、体内でインスリンがほとんど作られないことが原因です。このため、次のような特徴的な症状が見られることがあります。
・食欲の増加:インスリン不足で細胞がエネルギー不足に陥るため、食欲が異常に増加する場合があります。
・元気の低下:疲れやすくなり、散歩や遊びを嫌がることが増える場合があります。
<猫の症状>
猫では、肥満や生活習慣が大きなリスク要因となります。糖尿病による高血糖が神経や体調に影響を与えるため、以下のような特徴的な症状が見られます。
・足のふらつき:高血糖が神経に影響を与え、後ろ足のふらつきや、力が入りにくくなることがあります。
・毛艶の悪化:高血糖の影響でグルーミングが減り、被毛がボサボサになる場合があります。
犬と猫では特徴的な症状に違いがあるものの、共通するサインも多いため、普段から様子をしっかり観察しましょう。
糖尿病の診断方法
糖尿病が疑われる場合、動物病院では正確な診断を行うために複数の検査が実施されます。これらの検査で得られる情報は、治療方針の決定やその後の管理において非常に重要です。
<血液検査>
血液検査は糖尿病の診断に欠かせない基本的な検査です。以下の項目が主に確認されます。
・血糖値の測定:血液中のブドウ糖(血糖)の濃度を測定します。基準値を大幅に超えている場合、糖尿病の可能性が高まります。
・フルクトサミンの測定:血糖値が一時的に高いだけでなく、長期間にわたって高い状態(慢性高血糖)であることを確認します。これにより、より正確な診断が可能になります。
・腎臓や肝臓の機能検査:糖尿病は腎臓や肝臓に影響を及ぼすことがあるため、これらの臓器の機能もチェックします。
<尿検査>
尿検査は血液検査と組み合わせることで、より正確な診断が可能になります。
・尿糖の検出:尿に糖が含まれている場合、血糖値が高すぎて腎臓が処理しきれない状態であることを示します。
・ケトン体の検出:糖尿病が進行して危険な状態(糖尿病性ケトアシドーシス)に陥っている場合、体内で脂肪が異常に代謝されることでケトン体が生成されます。この異常を確認することができます。
<糖尿病診断後の定期検査>
糖尿病は、一度診断されると継続的な管理が必要な病気です。治療の効果を確認したり、病状の変化を早期に把握したりするために、定期的な検査が欠かせません。
・治療開始直後(1~2か月間)
症状や治療の効果を細かく確認するため、毎週の検査が推奨されます。
・状態が安定してきた場合
1~3か月ごとの検査で治療計画を見直し、必要に応じて調整します。
治療方法と管理方法
糖尿病の治療は、インスリン治療、食事療法、運動管理の3つを中心に進められます。
それぞれの方法について詳しく説明します。
<インスリン治療>
血糖値を下げるためにインスリン注射が必要です。インスリンは一般的に食後に1日1~2回、毎日同じ時間に投与します。飼い主様が安心して注射できるよう、動物病院で丁寧に方法をお伝えします。
ただし、インスリンの投与量が多すぎると低血糖のリスクがあるため、必ず獣医師の指導のもとで行いましょう。
インスリンを過剰に投与すると低血糖のリスクがあります。低血糖は命に関わる可能性があるため、投与量やタイミングは慎重に管理し、必ず獣医師と相談しながら進めましょう。
<食事療法>
血糖値を安定させるためには、犬や猫それぞれに合った食事療法が欠かせません。
・犬の場合:低炭水化物・高繊維質のフードが推奨されます。
・猫の場合:高たんぱく・低炭水化物のフードが適しています。
また、食事のタイミングは1日2回、インスリン注射のタイミングに合わせて与えるのが理想的です。不規則な時間に与えると血糖値が不安定になるため注意しましょう。
<運動管理>
適度な運動は、体重を適切に保つだけでなく、血糖値の安定にも役立ちます。また、筋肉量が増えることでインスリンの働きが良くなる効果も期待できます。
・犬の場合:散歩や軽いランニングなど、無理なく楽しめる運動を取り入れてください。
・猫の場合:室内でのおもちゃ遊びやキャットタワーを使った活動を通じて、ストレスを軽減しながら運動を促しましょう。
ただし、過度な運動は低血糖のリスクを高める恐れがあります。特にインスリン投与後の運動は、獣医師の指導を受けながら進めることが大切です。
緊急時の対応と注意点
糖尿病は、低血糖や糖尿病性ケトアシドーシスといった緊急事態が発生する可能性があります。
<低血糖が疑われるときの対応>
低血糖になると、ぐったりして動けなくなる、ふらつきや意識がぼんやりするなどの症状が見られます。ひどい場合にはけいれんを起こすこともあります。
このような状態を発見したら、市販のブドウ糖シロップや砂糖水を少量与えてください。誤嚥を防ぐため、直接流し込むのではなく上あごや歯茎に塗るようにしましょう。
<糖尿病性ケトアシドーシスが疑われるときの対応>
糖尿病性ケトアシドーシスの症状として、嘔吐や食欲不振、脱水、呼吸が浅く速くなること、甘酸っぱい口臭が挙げられます。この状態は命に関わる非常に危険なものです。
こうした症状が見られた場合には、速やかに動物病院を受診し、点滴などの緊急処置を受ける必要があります。
<日常的に注意すべきサイン>
水を大量に飲む、またはほとんど飲まなくなる場合や、尿の量が急に増えたり減ったりする場合は、異常の兆候かもしれません。
また、急激な体重の変化や食欲の低下が見られたときも、早めに獣医師に相談することが大切です。
まとめ
糖尿病の管理には、投薬、食事、運動、そして日々の体調観察が欠かせません。規則正しい生活を心がけ、適正体重の維持や運動量の調整を行うことで、愛犬や愛猫が快適に暮らせる環境を整えることができます。
また、緊急時に迅速に対応できるよう、低血糖や糖尿病性ケトアシドーシスの症状について、日頃からよく理解しておくことも大切です。
北海道札幌市の「アイリス動物医療センター」