心臓病のリスクから愛犬を守る|症状と予防策を獣医師が解説

愛犬がいつまでも元気で健康に過ごし、長生きしてほしいという思いは、全ての飼い主様が願うことだと思います。しかし最近、犬の心臓病が増えていることをご存じでしょうか。
例えば、「最近、愛犬が疲れやすい気がする」「夜中に咳をすることが増えた」など、ちょっとした変化に気付いたことはありませんか?実は、こうした症状が心臓病の初期サインである可能性があります。
心臓病は、早期に発見して適切な治療を行うことで、愛犬が快適に過ごせる時間を延ばすことができます。そのためにも、心臓病について正しく知っておくことが大切です。
今回は、犬の心臓病の基本情報や注意するべきポイント、そして予防について詳しく解説していきます。
■目次
1.犬の心臓病の種類と特徴
2.年齢や犬種によるリスクの違い
3.心臓病のサインと症状
4.検査内容
5.治療法
6.毎日のケア方法|心臓病の愛犬と快適に過ごすために
7.まとめ
犬の心臓病の種類と特徴
犬の心臓病にはさまざまな種類があります。その中でも特に注意が必要なのは、以下の2つの病気です。それぞれの特徴や、発症しやすい犬種について詳しくご説明します。
<僧帽弁閉鎖不全症>
この病気は小型犬に多く見られる心臓病で、特にキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルやトイプードルなどの犬種が発症しやすいと言われています。
僧帽弁閉鎖不全症は、心臓の弁が正常に閉じなくなることで血液が逆流し、結果として心臓に負担がかかる状態です。
初期段階では、症状が現れないことも少なくありません。しかし、病気が進行すると、咳が増え、疲れやすくなることがあります。
<拡張型心筋症>
大型犬に多く見られる心臓病です。特にドーベルマンやボクサーといった犬種がリスクの高い犬種として知られています。
この病気は、心臓が拡張してその機能が低下し、血液を十分に送り出せなくなる状態を指します。
初期段階では、元気がなくなる、運動を嫌がるといった変化が見られることがあります。ただし、症状が進むと呼吸が苦しそうになり、場合によっては失神してしまうこともあります。
日々の散歩や運動中に、愛犬が疲れやすい様子を見せたら、早めの受診を考えましょう。
年齢や犬種によるリスクの違い
心臓病は、年齢を重ねるにつれて発症リスクが高まる病気です。
特に8歳以上の高齢犬では、定期的な健康診断を受けることがとても大切です。また、遺伝的に心臓病のリスクが高い犬種の場合は、若い頃から体調に気を配り、異変を早めに察知することが重要です。
心臓病のサインと症状
心臓病のサインは、日常生活の中で飼い主様が気付きやすいものが多くあります。愛犬に以下のような体調の変化が見られた場合は、早めに対処することが重要です。
<初期症状(飼い主様が気付きやすいサイン)>
初期の段階では、軽い変化が見られることが多いため、日常の中で注意深く観察することがポイントです。
・咳:特に夜間や早朝に咳をすることが増えるのが特徴です。この咳は、心臓が拡大して気管を刺激することで起こるとされています。
・疲れやすい:以前は元気に走り回っていた愛犬が、少しの運動で息切れをする、散歩を嫌がるといった変化が見られることがあります。
・食欲不振:心臓病が進行すると、体に負担がかかり、食欲が低下する場合があります。
<緊急性の高い症状(すぐに動物病院へ)>
以下のような症状は、命に関わる可能性が非常に高い緊急のサインです。迷わず、すぐに動物病院に連絡し、診察を受けてください。
・お腹の膨れ(腹水):心臓の機能が低下することで体内に水分がたまり、お腹が膨らむようになる状態です。この症状は進行した心臓病や他の重篤な病気を示している可能性があります。
・呼吸困難:口を開けて苦しそうに息をする、舌が青紫色になる、ぐったりして動けないといった状態は非常に危険です。
・失神やふらつき:突然倒れたり立ち上がれなくなったりする場合は、心臓に重大なトラブルが起きている可能性があります。
検査内容
犬に心臓病の疑いがある場合、動物病院ではさまざまな検査を行い、詳しく状態を調べます。ここでは、一般的な検査から専門的な検査までを簡単にご紹介します。
<一般的な検査内容>
まず基本的な検査を行い、犬の全体的な健康状態を確認します。
・聴診
聴診器を使って、心臓の音やリズム、雑音の有無を調べます。特に心雑音は、心臓の弁に異常がある場合に聞かれることが多く、心臓病を早期に見つけるための重要な手がかりとなります。
・血液検査
犬の全身の健康状態を詳しく調べるために行います。この検査では、心臓に負担がかかることで腎臓や肝臓に影響が出ていないか、また貧血や炎症が起きていないかを確認します。
さらに、心臓病に関連するホルモン(BNPやNT-proBNPなど)を調べる場合もあります。
・レントゲン検査
胸部のレントゲンを撮影し、心臓の大きさや形、肺の状態を確認します。
心臓が拡大している場合や肺に水がたまっている場合には、心臓病が進行している可能性が考えられます。
<心臓病の診断に必要な専門的な検査>
心臓病が疑われる場合や詳しい状態を確認する必要がある場合、より専門的な検査が行われます。
・心エコー検査(超音波検査)
心臓の構造や血液の流れをリアルタイムで観察できる重要な検査です。
この検査では、僧帽弁閉鎖不全症の場合は弁の動きや血液の逆流の程度を、拡張型心筋症の場合は心筋の薄さや収縮力の低下を詳しく確認します。心臓病の診断や進行度を評価するうえで欠かせない検査です。
・血圧測定
高血圧は心臓病を悪化させる原因となるため、血圧を測ることも重要です。血圧のデータは、今後の治療方針を決めるうえで重要な情報となります。
・心電図検査
心拍のリズムや心電図の波形を記録し、不整脈があるかどうかを調べます。不整脈が見つかった場合には、その種類に応じた特別な治療が必要になることがあります。
<検査でわかること>
・心臓の構造や血液循環の問題が明確にわかるため、正確な診断が可能になります。
・症状の進行具合を客観的に評価し、愛犬に合った治療方針を決めることができます。
・定期的な検査で治療の効果や病状の変化を早めに把握でき、より適切な対策を取ることができます。
治療法
心臓病の治療では、適切な薬を使うことで心臓への負担を減らし、病気の進行を遅らせることができます。それぞれのお薬には異なる役割があり、愛犬の状態に応じて使い分けられます。
・ACE阻害薬:心臓の負担を軽くし、血圧を下げる効果があります。特に僧帽弁閉鎖不全症などの治療でよく使われる薬です。
・利尿薬:肺に水がたまるなどの症状を改善するため、体内の余分な水分を排出します。これにより、呼吸が楽になり、犬の体調が安定します。
・強心薬:心臓の収縮力を高め、全身に血液を効率よく送り出せるようにする薬です。心臓が弱っている場合に使用されることが多いです。
薬は症状や病気の種類によって使い分けられるため、獣医師の指導に従って正しく投与しましょう。
毎日のケア方法|心臓病の愛犬と快適に過ごすために
心臓病と診断された愛犬との生活では、日々のケアがとても大切です。運動や食事、ストレス管理を工夫することで、愛犬の体調を守り、安心して過ごせる環境を整えましょう。
◆運動量の調整
愛犬の体調に合わせた軽めの運動を心掛けましょう。
散歩は短時間で済ませるようにし、1回あたりの負担を減らす工夫をしましょう。高齢犬や心臓病リスクの高い犬種では、ゆっくりとしたペースで歩く、散歩を複数回に分けるなど、無理のない運動を取り入れるのがおすすめです。
さらに、暑さや寒さが厳しい時期には、気温や天候に注意し、早朝や夕方など快適な時間帯に運動を行うように心掛けてください。
◆食事管理
心臓病の管理には、塩分控えめのフードや、適正体重を維持できるバランスの取れた食事が基本となります。高品質なたんぱく質を含む食事は、筋肉の維持や健康のサポートに役立ちます。
必要に応じて療法食やサプリメントを取り入れる場合は、必ず獣医師に相談してください。
◆ストレスの軽減
ストレスは心拍数を上げ、心臓に余計な負担をかけます。愛犬がリラックスできる環境を整え、日常生活のリズムを一定に保つことが大切です。
また、過度な興奮や不安を避ける工夫も効果的です。静かに過ごせる場所を用意し、愛犬が安心できる環境作りを心掛けましょう。
◆定期的な健康診断の重要性
心臓病は外見からは症状がわかりにくい場合があります。そのため、定期的な健康診断で愛犬の状態を把握し、病気の進行を防ぐことが大切です。
成犬期(1〜7歳)は年1回、シニア期(8歳以上)は半年に1回(年2回)の診察が推奨されます。
診察では、血液検査や聴診、レントゲン検査などを通じて心臓病の兆候を早期に発見できます。心雑音が確認された場合には、心エコーなどの精密検査を受けることで、適切な治療につなげることが可能です。
まとめ
犬の心臓病は日々の予防とケアをしっかり続けることで、そのリスクを大きく減らすことができます。バランスの良い食事や適度な運動、定期的な健康診断を通じて、愛犬の健康を守りましょう。
肥満や過度な運動は、心臓に負担をかける原因となるため、日々の体重管理や運動量の調整がとても大切です。
また、定期的に健康診断を受けることで、万が一の異常にも早く気付き、必要な対応を取ることができます。
愛犬の健やかで快適な毎日を支えるために、これからも愛犬の健康を大切に考え、無理のない範囲でケアを続けていきましょう。
北海道札幌市の「アイリス動物医療センター」