愛犬・愛猫の足腰の痛みに要注意!|獣医が解説する整形外科疾患と治療法
愛犬や愛猫の動きが急に鈍くなったり、片足を引きずって歩いていたり、いつもより元気がない様子を見て、「足腰に何か問題があるのかも?」と心配になったことはありませんか?
動物は痛みを隠す本能があるため、飼い主様が異変に気づく頃には、すでに足腰に不調が現れていることが少なくありません。そのため、見過ごしがちな症状にも注意が必要です。
犬や猫の整形外科疾患は、単に足腰の問題にとどまらず、生活の質(QOL)にも大きな影響を与えます。だからこそ、早期に気づいて対処することがとても大切です。
今回は、犬や猫の足腰の痛みに焦点を当て、飼い主様が早期に気づくためのポイントや、できるケアについて詳しくお伝えします。
■目次
1.知っておきたい!犬や猫の整形外科疾患の基礎知識
2.犬や猫に多い整形外科疾患とその症状
3.要チェック!整形外科疾患の早期発見のポイント
4.診断・治療法|整形外科手術の実際
5.当院の事例
6.予防と日常ケア
7.まとめ
知っておきたい!犬や猫の整形外科疾患の基礎知識
整形外科疾患とは、骨や関節、筋肉、靭帯など、体を支える重要な部分に異常が生じる病気のことを指します。
これらの部分に問題が起こると、愛犬や愛猫の歩き方がぎこちなくなり、動きが制限されてしまうだけでなく、痛みや炎症が現れることもあります。
犬や猫に多く見られる整形外科疾患としては、関節炎や膝蓋骨脱臼、股関節形成不全、椎間板ヘルニアなどが挙げられます。これらの病気は、年齢や犬種・猫種によってかかりやすいものが異なるのが特徴です。
たとえば、小型犬では膝蓋骨脱臼が特によく見られ、特にトイプードルやチワワは発症リスクが高いです。
一方、大型犬ではラブラドールやゴールデン・レトリバーが股関節形成不全にかかりやすく、また、高齢になると関節炎のリスクが増していきます。さらに、ダックスフンドやコーギーといった軟骨異栄養犬種は、椎間板ヘルニアを発症しやすいため、特に注意が必要です。
犬や猫に多い整形外科疾患とその症状
<股関節形成不全>
股関節形成不全は、股関節が正常に発育しないことで、骨と関節が不安定になり、痛みや歩行障害を引き起こす疾患です。特にラブラドール・レトリバーや、ゴールデン・レトリバーなど、大型犬によく見られます。
■主な症状
・後ろ足を引きずる
・運動を嫌がる
・立ち上がるのが難しい、もしくは立ち上がる際に痛がる
・腰を振るように歩く
■飼い主様が気づきやすいサイン
・散歩や遊びの後に疲れやすく、ぐったりする
・座る際に後ろ足を投げ出すような動作をする
・歩き方が普段と違うように見える
<膝蓋骨脱臼>
膝蓋骨脱臼は、膝のお皿(膝蓋骨)が正常な位置からずれる病気で、特にチワワやトイプードル、ポメラニアンなどの小型犬に多く発生します。脱臼が進行すると、関節に痛みが生じ、日常生活に支障をきたすこともあります。
■主な症状
・足を引きずる、または突然足を上げる
・歩く時に膝がカクカクする
・運動を嫌がる
■飼い主が気づきやすいサイン
・突然足を上げて歩く
・散歩中に突然立ち止まる
・「キャン!」と鳴いて、足を引きずるように歩くことがある
<椎間板ヘルニア>
椎間板ヘルニアは、脊椎の間にある椎間板が飛び出し、脊髄を圧迫して痛みや麻痺を引き起こす病気です。特にダックスフンド、コーギー、バセットハウンドなどの胴長短足の犬種でよく見られます。
■主な症状
・背中や腰に触ると痛がる
・歩行が困難になる、後ろ足が麻痺する
・背中を丸めて動かなくなる
・尿失禁や排便の問題が見られることもある
■飼い主が気づきやすいサイン
・突然動かなくなる
・階段やソファに飛び乗るのを避ける
・足を引きずって歩くようになる
<関節炎>
関節炎は、特に高齢の犬や猫によく見られる疾患で、関節に炎症が起こり、痛みや動きの制限が生じます。原因としては、加齢の他にも、外傷や感染、免疫の異常による関節炎による関節の摩耗や炎症が挙げられます。
■主な症状
・動きが鈍くなり、歩行がぎこちなくなる
・長時間寝そべることが増える
・立ち上がるのに苦労し、動作がゆっくりになる
■飼い主が気づきやすいサイン
・運動を嫌がる、階段の上り下りを避ける
・寝る時間が増える
これらの整形外科疾患は、愛犬や愛猫の生活の質に大きな影響を与える可能性があります。早期発見が治療の鍵となるため、普段から動きや歩き方に注意を払い、少しでも異常が見られた場合は、すぐに動物病院に相談しましょう。
要チェック!整形外科疾患の早期発見のポイント
犬や猫の整形外科疾患は、日常生活の中で早期に発見することが非常に重要です。
ここでは、整形外科疾患を早期に発見するための重要なポイントをご紹介します。
<歩き方の変化>
いつもとは違う歩き方をしている場合は、注意が必要です。たとえば、片足を引きずる、ぎこちなく歩く、またはフラフラと歩いているようなら、股関節形成不全や膝蓋骨脱臼の兆候かもしれません。
■注意すべき品種・年齢
・小型犬(チワワ、トイプードルなど):膝蓋骨脱臼のリスクが高いです。
・大型犬(ラブラドールレトリバーなど):股関節形成不全がよく見られます。
膝蓋骨脱臼は、若齢からシニアまで幅広い年齢で発症することがあるため、年齢に関係なく注意が必要です。
<立ち上がりや座る動作>
犬や猫が立ち上がる時に苦労してる、または座る動作が遅くて痛がっているようなら、関節炎や椎間板ヘルニアの初期症状の可能性があります。
■注意すべき品種・年齢
・高齢の犬や猫:関節炎のリスクが高まります。
・ダックスフンドやコーギーなどの胴長短足の犬種は、椎間板ヘルニアのリスクが特に高いため、普段から注意深く見守ることが大切です。
<運動嫌い・疲れやすさ>
以前は元気に動き回っていたのに、突然運動を嫌がったり、以前よりも疲れやすくなったりしている場合、関節や筋肉、骨に問題があるかもしれません。
特に、階段の上り下りを嫌がる、またはジャンプを避けるようになった場合は、痛みや不快感が原因の可能性があります。
■注意すべき品種・年齢
高齢の犬や猫はもちろん、成長期に活発に動き回る若い犬や猫も注意が必要です。特にジャンプが多い猫や、運動量の多い犬はリスクが高まることがあります。
<食欲や気分の変化>
痛みや不快感があると、食欲が減って、元気がなくなることがあります。いつもより元気がない、遊びに興味を示さない、または食事を残すようになった場合は、体に何かしらの問題が潜んでいるかもしれません。
診断・治療法|整形外科手術の実際
整形外科疾患を正しく診断し、適切に治療するためには、専門的な検査と治療が欠かせません。
ここでは、動物病院で行われる主な整形外科の検査方法、代表的な手術、そして手術以外の治療法について詳しくご紹介します。
<整形外科検査>
整形外科疾患の診断には、次のような画像診断がよく使われます。
・レントゲン(X線検査)
骨や関節の構造を確認し、骨折や脱臼、関節炎などの異常を発見します。特に股関節形成不全、膝蓋骨脱臼、骨折の診断に効果的です。
・CT(コンピュータ断層撮影)
断面画像を取得することで、骨や関節の複雑な構造や腫瘍の有無を確認します。骨折や脊椎の異常の詳細な検査に適しています。
・MRI(磁気共鳴画像)
神経や椎間板などの軟部組織の状態を評価するための検査です。特に椎間板ヘルニアや神経関連の疾患に対して非常に有効です。
<代表的な整形外科手術>
・人工関節置換術
股関節形成不全などの重度の関節疾患で、関節が大きく損傷した場合に行われます。損傷した関節を人工関節に置き換えることで、痛みを軽減し、運動能力を回復させます。
・膝蓋骨脱臼の修復術
小型犬に多い膝蓋骨脱臼を治療する手術です。骨を削って膝蓋骨を正常な位置に戻し、脱臼の再発を防ぎます。軽度の場合は薬での治療も可能ですが、重度の場合は手術が必要となります。
・靭帯修復術(前十字靭帯断裂の修復)
前十字靭帯断裂は、膝の靭帯が損傷する病気で、運動中の急な負荷や日常の動作で発生します。手術では損傷した靭帯を修復し、膝の安定性を取り戻します。術後にはリハビリが重要です。
<手術以外の治療法>
・理学療法(リハビリテーション)
手術後や軽度の整形外科疾患に対しては、理学療法が効果的です。マッサージ、水中運動、ストレッチなどで筋肉を強化し、関節の可動域を回復させます。特に術後の回復には大きな効果があります。
・薬物療法
消炎鎮痛剤や関節保護剤を用いて、痛みを和らげ、炎症を抑える治療です。関節炎や軽度の靭帯損傷には特に有効ですが、長期間の使用は副作用のリスクがあるため、獣医師の指示に従って適切に行うことが大切です。
当院の事例
当院の手術実績をご紹介します。
<膝蓋骨内方脱臼整復手術|柴犬のケース>
今回は、2歳の柴犬に行った膝蓋骨内方脱臼の整復手術についてご紹介します。
この柴犬は、時々左後肢を持ち上げる症状が見られ、当院を受診しました。診察の結果、膝蓋骨内方脱臼と診断されました。まずは保存療法での経過を観察しましたが、半年経っても症状が続いたため、手術を決断しました。
手術では、膝蓋骨が正常な位置に収まるように滑車造溝術を行い、さらに脛骨粗面を移動させることで膝蓋骨の位置を調整しました。また、内側支帯を解放し、外側の関節包を縫縮することで関節の安定性を高めました。
手術後1年が経過していますが、再脱臼や跛行の兆候は見られず、順調に回復しています。今では元気に走り回っており、飼い主様も大変喜んでおられます。
膝蓋骨内方脱臼の早期治療は、生活の質を大きく向上させますので、気になる症状があれば早めにご相談ください。
<膝蓋骨脱臼手術>
今回、当院では小型犬に多く見られる膝蓋骨脱臼の治療を行いました。来院時に診察とレントゲン検査を行い、手術が必要と判断されました。手術は無事に成功し、膝蓋骨を正常な位置に戻すことができました。
術後は絶対安静が必要であり、入院中はお見舞いを控えていただきましたが、飼い主様にはいつでも電話で状況を確認していただけるよう配慮しました。お電話でのサポートを通じて、飼い主様も安心して治療経過を見守ることができました。
現在、術後のリハビリを行いながら順調に回復が進んでおり、完全な回復には約2ヶ月を見込んでいます。
予防と日常ケア
整形外科疾患の予防には、日常生活の中での適切な運動や体重管理、栄養管理が非常に重要です。ここでは、犬や猫の整形外科疾患を予防するための日常的なケアについて詳しく説明します。
<適切な運動>
運動不足や過剰な運動はどちらも整形外科疾患のリスクを高めます。無理のない範囲で適度な運動を行うことが重要です。
・犬の場合
年齢や品種によって運動量は異なります。特にラブラドールレトリバーやゴールデンレトリバーなどの大型犬や活動的な犬種には、関節や筋肉を強化するために、適度な散歩や遊びが必要です。
一方、小型犬は過度なジャンプや階段の上り下りが膝や腰に負担をかけるため、散歩程度の運動が理想的です。
・猫の場合
猫は自分のペースで運動しますが、適度におもちゃで遊び、キャットタワーを使った運動を促してあげましょう。ただし、過度なジャンプや激しい動きは避け、関節に負担がかからないよう注意が必要です。
<体重管理>
体重管理は整形外科疾患の予防において最も重要な要素の一つです。過剰な体重は、関節や骨に負担をかけ、関節炎や膝蓋骨脱臼などのリスクを高めます。
・犬の場合
バランスの取れた食事と適度な運動を心がけ、理想的な体重を維持しましょう。特に食欲旺盛な犬は、食事の量や内容に注意が必要です。
・猫の場合
室内飼いの猫は運動不足になりがちで、肥満になりやすいです。カロリーコントロールをし、キャットタワーやおもちゃで運動を促すことが大切です。
<食事の管理>
食事は整形外科疾患の予防に大きく影響します。栄養バランスの取れた食事を心がけることで、関節や筋肉の健康をサポートしましょう。
・関節に優しいフード
グルコサミンやコンドロイチンなどの関節保護成分が含まれたフードは、関節の健康維持に役立ちます。大型犬や高齢の犬や猫には、獣医師と相談の上で、このようなフードを取り入れることを検討してみましょう。
・体重管理用フード
肥満になりやすい犬猫には、低カロリーのダイエットフードを取り入れ、体重をしっかりコントロールすることが重要です。
<年齢や品種に応じたケアの違い>
年齢や品種によって、整形外科疾患の予防ケアは異なります。
・若齢期のケア
成長期には関節や骨の発達に大きく影響を与えるため、栄養バランスを考えた食事が重要です。また、無理な運動を避け、適度な運動を取り入れることが大切です。
・高齢期のケア
高齢の犬猫は関節炎や筋力低下が進行しやすいため、関節を保護するための食事や、軽い運動が推奨されます。理学療法も関節の柔軟性を維持するために役立つ場合があります。
・品種特有のケア
小型犬では膝蓋骨脱臼、大型犬では股関節形成不全のリスクが高いため、これらの犬種には関節に優しいフードや体重管理が重要です。
ダックスフンドやコーギーなどの胴長犬種は、背骨に負担がかかりやすいので、ジャンプや階段の上り下りを避ける環境作りが必要です。
<予防に役立つグッズや環境づくり>
・滑りにくい床材
家の中で滑らないように、滑りにくい床材やカーペットを敷くことで、関節への負担を軽減できます。
・階段・ジャンプ用のスロープ
胴長短足の犬種や高齢の犬猫には、階段やソファに登るためのスロープを設置すると、関節への負担を減らすことができます。
・キャットタワーや遊び道具
猫には、キャットタワーやおもちゃを使って適度な運動を促しましょう。ジャンプの高さを調整できる設計のものを選ぶと、関節への負担を最小限に抑えられます。
まとめ
犬や猫の整形外科疾患は、運動能力や生活の質に大きな影響を与えるため、日々のケアがとても重要です。適度な運動や体重管理、そして栄養バランスの整った食事は、関節や骨を守るための基本です。
特に、年齢や品種に合ったケアを心がけ、滑りにくい床材やスロープを活用するなど、関節への負担を軽減する環境作りも効果的です。
もし、愛犬や愛猫の歩き方や動きに少しでも異変を感じたら、早めに動物病院で獣医師に相談しましょう。定期的な健康チェックを行いながら、健康で快適な生活をサポートしていきましょう。
北海道札幌市の「アイリス動物医療センター」